就業規則は、「会社の憲法」などとよく言われます。
「法律で作ることになっているから」とか「助成金の申請に必要だから」といった理由で作成をお考えの方や、労働基準監督署の指導や是正勧告を受けて作成しなければならない、とお考えの方もいらっしゃると思いますが、
就業規則は、経営者と社員が、会社という一つの組織の中で、ともに安心して気持ちよく仕事をし、業績を伸ばしていくための職場のルール(労働時間、休日、給料、有給休暇などの労働条件や、社員に守って欲しい服務規律など)を決めることができる、役に立つ経営ツールです。
こちらのページでは、就業規則の意味と必要性を労働(雇用)契約からご説明した後、記載すべき事項、作成・変更の手続、就業規則の活用などについてカンタンに解説しています。是非、目を通していただいて参考にしてください。
きっかけは何であれ、せっかく就業規則を作ろうと思い立ったわけですから、ひな型やモデルをそのまま使うだけではなく、御社独自の一工夫をして、
「会社の考えや経営状況、業務の実態に合っていて、社員も安心して一生懸命働いてくれる。」
そんな「使える就業規則」を目指してください。
〈使える就業規則 5つの鉄則〉
小野社会保険労務士事務所では、就業規則に関しまして以下の業務に取り組んでいます。
こんなお考えやご要望をお持ちでしたら、一度ご相談下さい。
雇うときは「労働契約」を結んでいます。
人を雇い入れるときには、「労働契約」を結びます。
労働契約は、働く時間や休みの日、給料などの労働条件を会社が示し、これを労働者が承諾することで成立します。
本来、労働契約は、会社と労働者が「一方が労働に従事することを約し、相手方がこれに対して報酬を与えること」を合意することで成立しますが、経済的に弱い立場にある労働者が会社と適切な内容の契約を締結できるように、労働基準法で労働条件の最低基準を定めています。
また、契約を口約束だけで行っていると、あとあと、その内容についての誤解が生じてトラブルが発生しかねませんので、労使ともに契約内容をしっかりと確認したうえで、安心して雇入れ、働けるように、労働契約法が以下のような労働契約に関する基本的な事項を定めています。
労働条件は明示しなければなりません
労働基準法(第15条第1項、法施行規則第5条第1項)は、労働契約のうち一定の事柄を契約時に明示すべきこと、その中でも特に重要なものは書面によって明示すべきとしています。
さらに、労働契約法(第4条第2項)は、労働基準法で明示が義務付けられている事項以外についても「できる限り書面で確認する」よう定めています。
1 労働基準法による絶対的明示事項
必ず明示しなければならない。(昇給に関する事項以外は必ず書面で明示。)
2 労働基準法による相対的明示事項
その定めをする場合には、明示しなければならない事項
なお、短時間労働者(パートタイマー)に対しては、上記のほか「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を書面、ファクシミリ、電子メールのいずれかの方法で明示することとされています。(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条第1項)
また、有期労働契約者に対しては、上記のほか「更新の有無」、「更新の判断基準」を明示すべきこととされています。(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条)
組織的な運営に欠かせない就業規則
会社は、労働者一人一人と十分協議して、お互いに納得のいく内容の労働契約を結ぶのが一番ですが、それぞれに異なった内容の契約を締結していたのでは、統一した管理ができませんし、会社の事務の負担も膨大なものとなってしまいます。
また、労働者一人一人が個々の労働契約の内容に従って意欲的に働いたとしても、それが、まとまりのない行動では、会社としてのパフォーマンスが十分に発揮されるとは言い難いでしょう。
会社が、効率的に社員の労働力を使用して業務を運営していくには、組織秩序を維持するためのルールを定め、それを社員が守ることで組織的な運営をしていくことが必要です。
そこで、労働力を統一的に組織化して運営するために、会社が定型的に労働条件を定めることが必要になり、この「使用者が労働条件や職場の秩序(規律)に関して統一的かつ画一的に定めたルール」が「就業規則」なのです。
就業規則で定める労働条件が「労働契約」の内容となる場合
労働契約法第7条は、「労働者と使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」としています。
これは、契約で労働条件を詳細に定めなかった場合に、
という要件を満たす場合に、就業規則で定めた労働条件が労働契約を補充して、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的な効果が生じることを規定しています。
なお、この就業規則には、労働基準法第89条では作成が義務付けられていない常時10人未満の労働者を使用する使用者が作成する就業規則も含まれると考えられています。
また、周知の方法は、労働基準法施行規則第52条の2に定める3つの方法
に限らず、実質的に判断されると考えられています。
そして、労働契約法第7条の但し書きでは、「ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条(就業規則違反の労働契約)に該当する場合を除き、この限りでない。」として、就業規則に定める労働条件が労働契約を補充するのは、労働契約で詳細に定められなかった部分であり、「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、それが就業規則の労働条件を下回る場合を除いて、その合意が優先することを定めています。
就業規則は、社員の労働条件、つまり「労働契約」の内容を定める重要なものであることを理解しておきましょう。
労働条件は、労使が対等の立場で締結する労働契約で定めるのが原則です。
そして、会社が作成する就業規則が、労働契約の内容になる場合もあることは先に述べたとおりです。
労働条件を定めるものとしては、これ以外に、労働基準法をはじめとする労働諸法令や、労働組合のある会社では「労働協約」(労働組合と使用者の間で結ばれる労働条件その他に関する協定)もあります。
これらの関係はどうなるのでしょうか。
労働契約法、労働基準法、労働組合法の規定を見ると、
法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約
の順となり、労働契約に定める労働条件が上位のものに反する場合は、その部分は無効となり法令、労働協約、就業規則で定める基準によることとなります。
また、就業規則も上位の法令、労働協約に反してはならず、もし反する内容が規定されている場合にはその部分は労働契約の内容にはなりません。
〈関係条文〉
労働契約法第12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働基準法第93条
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第十二条の定めるところによる。
労働契約法第13条
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条(第十二条)の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
労働基準法第13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
労働基準法第92条
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
労働組合法第16条
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定めがない部分についても同様とする。
常時10人以上の労働者を雇用する場合は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。(労基法第89条)
⇒違反すると30万円以下の罰金に処せられる場合があります。(労基法第120条第1号)
※「常時10人以上」には、正社員だけでなく、契約社員やパートタイマー、アルバイトなどすべての者を含みます。
常時10人未満の労働者を雇用する場合には、就業規則を作成していなくても労働基準法の違反とはなりませんが、規模の小さい職場ほど労働条件があいまいになりやすく、何かあったときにはそのトラブルの処理に多くの時間と手間をかけなければならなくなることが多いようです。
一人一人と詳細な労働契約を結べばよいわけですが、職場の皆さん全員に共通する労働条件や守ってもらいたい事柄は、就業規則で明確に定めておくのが安心です。
就業規則に記載しておく項目や内容は、業種や業態、会社ごとの労務管理の方針などによってそれぞれ個性的なものになるものですが、労働基準法ではこれだけは定めておかなければならないという事項を定めています。(労基法第89条)
逆に、定められない項目というものはありませんので、会社の経営理念やビジョン、社是、創業からの歴史、会社が求める社員像などのほか、慶弔規定や規則改正の手続きを置いている会社もあります。
1 絶対的必要記載事項
必ず就業規則に定めなければならない事項
2 相対的必要記載事項
その定めを設ける場合には必ず記載しなければならない事項
就業規則への記載事項と前に述べた労働条件明示事項を比べると次のとおりです。
労働条件明示事項 | 就業規則必要記載事項 | ||
絶 対 的 | ①労働契約の期間 ②就業の場所、業務 ④就業規則の絶対的必要記載事項② ⑤就業規則の絶対的必要記載事項③ | 絶 対 的 | ①始業終業時刻、休憩時間、休日、休暇、 ②賃金(臨時の賃金を除く)の決定・計算 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
相 対 的 | ①就業規則の相対的必要記載事項 ②休職に関する事項 | 相 対 的 | ①退職手当の適用労働者の範囲、決定、計算 ②退職手当を除く臨時に支払われる賃金、賞与 ③労働者に負担させるべき食費、作業用品 ④安全及び衛生に関する事項 ⑤職業訓練に関する事項 ⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 ⑦表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項 ⑧その他事業場の労働者のすべてに適用される事項 |
※ 労働条件の絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)は、書面の交付が必要です。
就業規則を定めるとき、変更するときは次の手順で行います。
①就業規則(変更)案作成
②過半数労働組合(又は過半数代表者)からの意見聴取(労基法第90条第1項)
過半数代表者は「事業場全体の労働時間等の労働条件の計画・管理に関する権限を有する者など、管理監督者ではないこと」とされています。
一般的には、部長や課長などの管理者を代表とすることはできません。
また、選出方法も使用者が指名したりするのではなく、投票や挙手による選出などの方法でなければなりません。(平成11年1月29日基発45号)
意見聴取は、あくまでも意見を聴けばよく「同意」を得ることまでは求められません。できる限り尊重するとの趣旨です。(昭和25年3月15日基収525号)
もし、労働者代表が反対して意見書を提出しなかったとしても、意見を聴いたことが客観的に証明されれば就業規則の届出は受理されます。(昭和23年5月11日基発735号、昭和23年10月30日基発1575号)
パートタイム労働者など一部の者に適用される就業規則を作成した場合はどうでしょうか。このような規則も「当該事業の就業規則の一部である」から、パートタイム労働者を含むすべての労働者の過半数労働組合又は過半数代表者の意見を聴くことになります。
なお、いわゆるパートタイム労働法では、全労働者の代表からの意見を聴くことを前提に、「当該事業場において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められる者の意見を聴くように努めるものとする。」(同法第7条)としています。
③所轄労働基準監督署へ就業規則と意見書を届出
届出は、規則本体に「就業規則制定(変更)届」と「意見書」を添付して行います。
提出する原本と会社備付用の2部を用意して持参し、受付印を押してもらいましょう。
④事業所での周知(配布、掲示、備付など)
労働基準法106条第1項は、「使用者は、この法律及びこの法律に基づいて発する命令の趣旨並びに就業規則を、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、労働者に周知させなければならない。」と定めています。
「就業規則を周知すると年次有給休暇ばかり取得される。」などの理由で、せっかく作成した就業規則を机の中に眠らせておく会社もあるようですが、休暇を取得するときのルールや取得時期を変更してもらうこともあり得ることをきちんと説明して納得してもらう方が、会社にとっても社員にとっても仕事をしやすい風通しのいい職場になるのではないでしょうか。
社員に就業規則(労働条件や服務規律)を良く理解してもらいたいときには、社員説明会を開催して、そのように定めた理由や背景も一緒に説明するのが効果的です。
職場で、社長や部長などの管理職と一般の社員の間で、労働条件や服務規律(働く時のルール)の理解が食い違い、これが原因でトラブルが発生して、職場の雰囲気が気まずくなったり、働く意欲が減退したりするケースがあります。
このような場合、トラブルの解決に多大な手間や時間がかかるのはもちろん、職場の生産性も低くなるわけですから、会社の売上げや利益の低下につながりかねません。
従業員側からの疑問や不満を見てみると、
など、様々なものがあります。
これに対しては、会社としても筋の通った解釈や理由があり、よくよく考えた末に、やむなく行わざるを得なかったものもあるのは当然のことでしょう。
このような疑問やトラブルを予防するには、賃金や労働時間などの労働条件、守ってもらいたい服務規律などを明確に定め、その内容を社員の皆さんにお知らせして、会社と社員が同じ解釈、理解をしておくことが大切です。
このことで、ちょっとしたボタンの掛け違いから生じる無用の争いを未然に防ぎ、「社員がやる気を出して働けるいきいきとした職場づくり」の第1歩を踏み出すことができるのです。
もちろん、就業規則があればすべてのトラブルを防ぐことができたり、発生したトラブルをたちどころに解決できるというものではありません。
しかし、少なくとも、誤解によるものや規定があいまいだったために起きる無用のトラブルを、少しでも小さくしたり発生を避ける効果は十分に持っているものです。
無用のトラブルを防ぎ、気持ちよく働ける職場づくりの第1歩となる就業規則ですが、きちんと作成しておくと、「職場のルールブック」として活用する以外にも、「事務処理マニュアル」や「説明資料」などとして、こんなときに活用できそうです。
就業規則には、会社(使用者)と従業員(労働者)との間のお互いの権利や義務が、労働条件や服務規律として定められます。
このことから、就業規則は「会社の憲法」などとよく言われます。
日本の憲法は、戦後一度も改正されたことはありません。(これは、日本国憲法の法形式と手続の厳格さによるところでもありますが)
しかし、会社の憲法である就業規則は、次のような理由から、たびたび見直し、変更が必要になります。
法改正や社員の働き方や働かせ方が変わったときには、見直しを行ったり、新しい規定を追加するなどのメンテナンスを行って、常に職場の実態を反映した「使える就業規則」にしておく必要があります。
労働契約は、労使の合意で労働条件を変更するのが原則です。(労働契約法第8条)
そして、労働者と合意することなく、就業規則の変更により労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することは、原則としてできないとされています。(労働契約法第9条本文)
就業規則の変更という方法で労働条件を変更できるのは、
に限られます。(労働契約法第9条但し書き、同法第10条本文)
「合理的な変更」であるかどうかは、労使ともにそれぞれの主張があるところで、最終的には裁判所の判断によるほかはないものです。
このため、就業規則の変更とくにも不利益変更の実務においては、原則に立ち返り、個々の労働者への十分な説明を通じて変更への合意を得る努力を行うことが肝要です。
そして、合意が得られたらその旨を書面で確認しておくとよいでしょう。
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