働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)は、平成30年4月16日に第196回通常国会に上程され、同6月29日に可決成立、同7月6日に公布されました。
働き方改革は、社会問題と経済問題の解決を目指すものです。
◎長時間労働の是正による、過労死や健康障害の撲滅
◎働き方にかかわらない公正な待遇の実現による、非正規労働者の所得の向上
◎長時間労働の是正による、WLBの向上を通じた労働参加率の向上
◎働き方にかかわらない公正な待遇の実現による、働く人の意欲と労働生産性の向上
⇒ 労働参加率と労働生産性の向上によって、さらなる経済成長を実現
(1) 時間外労働時間の上限規制(労働基準法第36条)
◎ 36協定記載事項を法律に明確に規定(第2項)
〇 労働者の範囲(第1号)
〇 対象期間(1年間に限る。)(第2号)
〇 労働時間を延長し、又は休日に労働をさせることができる場合(第3号)
〇 1日、1ヶ月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数(第4号)← 事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。(第3項)
〇 厚生労働省令で定める事項(第5号)
・限度時間を超えて労働させる労働者の健康確保措置
・限度時間を超える時間外労働の割増賃金率
◎ 限度時間の原則:月45時間 年360時間(第4項)
◎ 限度時間の例外:通常予見できない特別の事情がある場合でも、
①年720時間以内(時間外のみ)
②1月100時間以内(時間外+休日)
③2〜6ヶ月の期間の平均が80時間以内(時間外+休日)
④月45時間を超える月は年6回以内(第5項、第6項)
◎ 通常予見できない特別の事情については、できる限り具体的に定める必要があり、「業務の都合上必要な場合」、「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招く恐れのあるものは認められない。
◎ 例外のうち②③に違反した場合、罰則が科される。(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)(第119条第1号)
◎ 新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務(第11項)には第3項から第5項まで及び第6項(第2号及び第3号に限る。)は適用しない。
建設の事業(第139条)、自動車運転の業務(第140条)、医業に従事する医師(第141条)及び鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(第142条)については、上限規制の猶予措置が設けられている。
通常時は月45時間以内となるように管理しないと、本当に忙しいときに特別条項を使えなくなってしまう。月45時間以内の時間外労働となる体制を整えなければならない。
(2) 労働時間の適正な把握(労働安全衛生法第66条の8の3)
◎ 長時間労働発生時の医師による面接指導を実施するため、高度プロフェッショナル制度の対象者を除いて、厚生労働省令で定める方法(原則として、使用者の現認や客観的な方法)により、労働時間を把握しなければならない。(高プロ制度対象者については、健康管理時間を把握する措置を講じる必要がある。)
管理監督者や裁量労働制が適用される者も対象である。
(3) 健康管理のための産業医の活用(労働安全衛生法第13条)
◎ 事業者の産業医への情報提供義務などを定め、産業医・産業保健機能を強化
(4) 年休付与義務(労働基準法第39条)
◎ 10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならない。(労働者による通常の時季指定や計画的付与によって取得した日数については不要)(第7項)
〇 使用者による時季の指定に当たり、厚生労働省令で定める事項(予定)
・ 労働者に対して時季に関する意見を聴くこと
・ 時季に関する労働者の意思を尊重するよう努めなければならないこと
・ 年次有給休暇管理簿を作成しなければならないこと(様式は任意)
◎ 第7項に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられる。(第120条)
個人ごとに年次有給休暇を管理している場合、各人の基準日の把握が必須
一括付与管理方式への変更や計画年休による年次有給休暇の付与も検討
(5) 高度プロフェッショナル制度の創設(労働基準法第41条の2)
◎ 高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する労働者であって、職務の範囲が明確で一定の年収を有する者について、健康確保措置を講ずること、本人の同意や労使委員会の決議を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
◎ 事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計(健康管理時間)が一定時間を超える場合には、必ず医師による面接指導を受けさせなければならない。
◎ 対象者は自らの意思で制度の適用を解除できる。
(6) フレックスタイム制の見直し(労働基準法第32条の3)
◎ 清算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長(第1項第2号)
◎ 1ヶ月を超える清算期間の場合、清算期間を1か月ごとに区分した期間ごとに、平均して1週間当たりの労働時間が50時間を超えないことが必要(第2項)
◎ 清算期間が1ヶ月を超える場合、労使協定の労基署への届出が必要(第4項)
◎ 第2項の規定に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられる。(第120条)
(7) 中小の割増賃金引上げ猶予措置の廃止(労働基準法第138条の削除)
◎ 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を確保する努力義務。(第1項)
(9)施行日は2019年4月1日。ただし、中小事業主については、(1)は2020年4月1日、(7)は2023年4月1日とされている。
(1) パートタイム・有期雇用労働者法の整備
◎ 不合理な待遇差の禁止(パート有期法第8条)〜 均衡待遇
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、職務の内容及び配置の変更の範囲及びその他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
正社員やパート社員などの社員の区分ごとに、業務の内容とその業務に伴う責任(職務内容)と変更の範囲、配置転換の有無とその範囲、を確認しておく必要がある。
基本給、各種手当、福利厚生などの待遇について、社員の区分ごとに支給の有無、支給する趣旨や決定の基準を確認し、正社員とそれ以外の区分の間で差異がある場合にはその理由を確認。⇒ 職務内容、職務内容及び配置の変更の範囲その他の事情で説明できるか?
組合のある会社では、非正規の方も含む組合としてもらった上で話し合って今後の待遇を決めていくことが必要。組合のない会社では、非正規の方の声をしっかりと吸い上げて決めていく。⇒裁判官が判断する際、真摯な話し合いを経て決まった待遇であることは、不合理とは認められないと判断する有力な事情となりうる。
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取り扱いをしてはならない。
〇 短時間・有期雇用労働者の雇い入れ時に、第8条(不合理な待遇の禁止)、第9条(差別的取り扱いの禁止)、第10条(賃金)、第11条(教育訓練)、第12条(福利厚生施設)及び第13条(通常の労働者への転換)の規定により求められている措置について、講ずることとしている措置の内容を説明しなければならない。(第1項)
〇 短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、待遇の相違の内容及び理由並びに第6条(労働条件に関する文書の交付等)から第13条までの規定により求められている措置に関する決定をするに当たって考慮した事項について説明しなければならない。(第2項)
〇 第2項の説明の求めをしたことによる解雇その他の不利益取り扱いの禁止(第3項)
説明義務違反は、待遇差の不合理性(第8条)の判断に影響する。
◎ 行政による履行確保、紛争解決手続の整備(パート有期法第18条、23条以下)
〇 報告の徴収、又は助言、指導若しくは勧告(第18条第1項)
〇 紛争の解決の促進に関する特例(第23条)、紛争解決の援助(第24条)、調停の委任(第25条)、調停(第26条)
(2) 労働者派遣法の整備
◎ 不合理な待遇差の禁止(労働者派遣法第30条の3第1項、30条の4)
◎ 不利益取り扱いの禁止(労働者派遣法第30条の3第2項)
◎ 待遇の説明義務 (労働者派遣法第31条の2第2項以下)
◎ 行政による履行確保、紛争解決手続(行政ADR)の整備(労働者派遣法第47条の6以下)
◎ ハマキョウレックス事件(最高裁二小 平成30年6月1日判決)
・トラック運転手である正社員と契約社員の待遇の差が争点
・正社員に支払われていた「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「通勤手当」「皆勤手当」が、職務内容が同一である契約社員に支給されないのは不合理
・転勤が予定されている正社員に支払われていた「住宅手当」が、転勤がない契約社員に支給されないのは不合理とは認められない。
手当等の個別の待遇ごとに、その趣旨や性質に基づいて不合理性を検討
・定年後の再雇用者(嘱託社員)の賃金引き下げが争点
・定年後の再雇用であることは、労働契約法第20条の「その他の事情」に当たる。
・正社員には基本給、能率給及び職務給が支給され、嘱託社員には基本賃金及び歩合給が支給されていることについて、両者を比較してその差が約2%ないし12%にとどまっていること、嘱託社員は一定の条件を満たせば老齢厚生年金を受給できる上、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始までの間、2万円の調整手当が支給されることなどから、職務内容及び変更の範囲が同一であっても不合理とは認められない。
・「精勤手当」が支給されないことは不合理
・「住宅手当」及び「家族手当」が支給されないことは、嘱託社員は一定の条件を満たせば老齢厚生年金を受給できる上、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始までの間、2万円の調整手当が支給されることなどから、職務内容及び変更の範囲が同一であっても不合理とは認められない。
・「役付手当」が支給されないことは、役付手当が正社員の中から指定された役付者であることに対して支払われるものであることから、不合理とは認められない。
・ 正社員の「超勤手当」の計算基礎には「精勤手当」が含まれるのに、嘱託社員の時間外手当の計算基礎に「精勤手当」が含まれないのは不合理。
労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断する際に考慮する「その他の事情」は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないとして、「定年後の再雇用であること」はその他の事情に当たるとした。
(4)施行日は、2020年4月1日。ただし、中小事業主へのパート有期法の適用は2021年4月1日であり、それまでの間、中小事業主には旧パート労働法、第20条削除前の労働契約法が適用される。
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